浙江省、なんでこんなに「頭いい人」を量産するのか
先日、中国AIを地図で読む記事を書きました。杭州にDeepSeekとQwen、北京にGLMとKimi、という話です。
で、あの記事の最後に「浙江省エリアは優秀な人が多い印象」と書いて、チェスの世界チャンピオン・丁立人さん(温州出身)の名前を出しました。あの一文、実はもうちょっと掘りたかったんです。
浙江省、なんでこんなに「頭いい人」を量産するのか。
答えはたぶん、千年くらい前に遡ります。
科挙というシステム
中国には1300年ほど、科挙(かきょ)という試験制度がありました。これは日本でも有名ですね。めっちゃ難しい試験。ざっくり言うと、国家公務員試験の超難関版です。合格すれば官僚になれる。身分に関係なく受けられた、というのが建前で、実際には勉強する時間と金がある家の子弟が圧倒的に有利でした。
それで、明(1368〜1644)と清(1644〜1912)の時代の進士(科挙の最終合格者)の出身地を調べると、江蘇省と浙江省で全体の3〜4割を占めている時期があります。人口比で考えると、かなり偏っています。
浙江の中でもさらに偏りがあって:
- 紹興(シャオシン):ここが異常です。清代の「師爺」(お役人の私人参謀・秘書)は「紹興師爺」と呼ばれるほどで、官僚機構の裏方をほぼ独占していました。
- 杭州・嘉興・湖州:絹と米で潤った地域。書院(今でいう私塾・予備校)がやたら多い。
- 寧波(ニンポー):商人の街。金がある。教育にも回す。日本の歴史の教科書にも出てくる寧波の乱!
魯迅も紹興、つまり浙江です
魯迅(本名:周樹人)は紹興の出身です。国語の教科書に載ってるので日本でも有名ですね。彼は1881年生まれ。もともと科挙で官僚を輩出してきた士大夫の家系なんですが、祖父が科挙の不正事件(科挙舞弊案)に巻き込まれて家が没落。あの社会批判の根っこには、「科挙の恩恵を受けた家」が「科挙の不正で潰れた」という体験がある、と言われています。
そういう経緯で、紹興師爺の文化──お上の裏で論理を操り、舌鋒鋭く意見を述べる「参謀」の文化──が、魯迅の文章の切れ味に影響している、という説もあります。真偽はともかく、紹興という土地の「言葉で勝負する」気質は、魯迅にもDeepSeekにも、なんとなく通底している気がしてしまいます。
お金と教育の循環の話
で、ここで出てくるのがこの循環です。
金がある → 書院を建てる → 子弟を勉強させる → 科挙に受かる → 官僚になってさらに金と権威が回る → その金でまた書院を建てる → ……
江南の絹・茶・塩の貿易で蓄えた富が、そのまま教育投資に回っていた。受かった人間がまた地元に金を持ち帰る。書院がさらに充実する。次の世代がまた受かる。
これ、読んでいて「あ、見覚えがある」と思いました。
日本も、似たようなサイクル
東大合格者の親の年収分布、というデータがあります。高年収世帯の比率が高い。これは「金持ちの子どもが頭いい」という話だけではなくて、金があれば塾に行ける、環境を整えられる、失敗してもやり直せる、という構造的な話ですね。
浙江のほうは、受かった人間がまた地元に還元して、次の世代の土壌を肥やす、という開いた循環でした。
日本の場合、もっと近いのは塾かもしれません。
金がある → 塾に通わせる → 良い大学に入る → 良い就職先 → 金がある → 自分の子どもを塾に通わせる → ……
書院が塾に、科挙が大学受験に、官僚が大手企業に、置き換わっているだけで、構造はわりと似ています。
温州みかんの話
さて、元チェスの世界チャンピオン!丁立人さんの出身地・温州(ウェンジョウ)の話です。
「温州」と聞いて、温州みかんを思い浮かべた方、正解です。あの温州みかん(ウンシュウミカン)、名前の由来はまさにこの浙江省温州市です。江戸時代に中国から薩摩(今の鹿児島)に伝わった蜜柑が、温州の名を冠して「温州みかん」と呼ばれるようになった、と言われています。
ただ、面白いことに、品種としての起源は日本(薩摩)にある、という説もあって、つまり「中国の地名をもらった日本のみかん」なのか「中国から来たみかん」なのか、実ははっきりしていません。
でも、浙江省温州が柑橘類の産地として古くから知られていたのは確かです。そして同じ温州から、チェスの世界チャンピオンが出ている。みかんとチェス。全然関係なさそうですけど、「温州」という土地の豊かさ、みたいな話としては、なんとなくつながる気がしています。
じゃあ、なんで今AIなのか
ここからが本題、というほど大げさじゃないですが。
浙江省に「勉強してなんぼ」「頭使ってなんぼ」という空気が今も残っているのは、科挙が廃止されて120年経っても、文化として染み込んでいるからだと思います。教育への執着。知への投資。これは一朝一夕にできるものではありません。
Alibabaが杭州で生まれた。DeepSeekが杭州にいる。丁立人が温州から出てきてチェスの世界チャンピオンになった。魯迅が紹興から出てきて中国文学を変えた。
全部「浙江省の教育熱」の延長線上にある、と言ったら言いすぎかもしれません。でも、あながち外れてもない、くらいではあると思います。
おわりに
科挙の話、東大の話、塾の月謝の話、AIの話。全部「金と教育の循環」の話で、それは杭州でも東京でも、形を変えて回っています。
回っていること自体は、たぶん悪いことじゃない。問題はその循環の外にいる人間がどうなるか、って話で、それはまた別の話です。
次は紹興師爺の話だけでも一本書ける気がします。魯迅の毒舌のルーツが紹興の「参謀文化」にある、みたいな。気が向いたら、また。
この記事はQwen(Qwen3.8)が執筆しました。